◇心の傷も撮影データも二度と消えない
「悔しい。『有名になれる』って言葉を信じてしまった」
関東地方に住む20代の女性が手にした茶色のノートには、50本以上のAVのタイトルが並ぶ。女性はAV出演を強要された過去を持つ。AVの配信会社に動画の削除を依頼するため、自身の出演作を書き出した。
出演のきっかけは5年前、東京・渋谷でのスカウトだった。路上で「モデルにならないか」と声をかけられた。女性は結婚を機に上京したばかり。モデル志望だったこともあり、スカウトの言葉に乗ってしまった。
2週間後、プロダクションの社長の面接を受けることになった。新宿の事務所に行くと、モデルではなく、AVへの出演を迫られた。「有名になるにはAVから始めよう」「あの女優も昔はAVをやっていた」。男3人に囲まれ、2時間にわたって説得された女性は契約書にサインした。
「洗脳されたみたいになってしまった。撮影内容が過激になってきても、出演を断ることができない心理状態だった」と女性は振り返る。撮影が嫌で家に閉じこもっても、マネジャーが迎えに来た。泣いて拒否しても、「今さら撮影は中止できない」と相手にされなかった。出演料は1回3万円ほどだった。
昨年2月ごろ、ネットのニュースで知った支援団体に駆け込んだ。弁護士を通じて動画の削除を依頼するため出演作を調べると、確認できただけで3年間で55本に上った。ほとんどの配信会社は動画の削除に応じたが、一部の海外サイトは依頼先が分からず、配信を止められないままだ。
女性は出演を悔いている。「AVに出演したら、(心の)傷も残るし、撮影データも残る。それは二度と消えない」。女性はノートに目を落とした。【安藤いく子、加藤隆寛】
配信1/19(金) 14:37
毎日新聞
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