たばこを吸うと肺がんになる――世界的に広まるこの“定説”は、禁煙運動が進めば進むほど、疑わしくなってくる。たばこを吸わなくても肺がんになる人はいるし、逆に愛煙家でも医者知らずで元気な人は大勢いるからだ。
近ごろ、英国のがん専門家がこんな指摘をしたという。
「人々は長期間にわたり、喫煙者が肺がんの主な患者だと考えていたが、このような観念を変える必要がある。いまや肺がん患者の2割は、喫煙とは何ら関係がなくなっている。肺がんの誘発要因、肺がん診断などの研究を強化するべきだ」
イギリスは昔から喫煙大国と呼ばれてきたが、さまざまな禁煙措置により喫煙率は27%にまで下がっている。にもかかわらず、肺がん患者は増え続けて死亡率も高い。たばこ以外の因果関係を本気で調べなければ、がん治療の未来は拓けないと考えるのは自然な流れだろう。
さらに、世界各国の喫煙率と肺がんの死亡者数を比べてみると、ある傾向に気付く。中部大学教授の武田邦彦氏がいう。
「イギリスは肺がんによる死亡者数は10万人あたり721人ですが、イギリスと同じくらいの喫煙率であるフランスの肺がん死は386人と約半分。イギリスやドイツ、ロシアといった北にある国々が喫煙率に対して肺がん死が多い傾向があることが分かります。
この原因はさまざま考えられます。車の排気ガスによる大気汚染や、断熱材を使った建造物から出るアスベスト粉塵、暖炉やストーブを焚くことによる室内環境の悪さ……。たばこだけを悪者にすることによって、それ以外の肺がんの主たる要因を見逃しているのです。この責任は一体誰が取ってくれるのでしょうか」
日本も決して例外ではない。1960年代後半に83%以上いた男性の喫煙率は、現在半分以下の40%を切っている。その反面、肺がんの死亡者数は右肩上がりで年間6~7万人にまで膨れ上がっているのだ。武田氏が続ける。
「肺がんの中でも、喫煙と関係が深いとされているのは肺の入り口に近い部分にできる『扁平上皮がん』です。しかし、このがんは肺がん全体の25~30%しか占めておらず、転移が遅く、早期発見なら治療の可能性も高い。
かたや、最近では男性の肺がんの6割近くは、肺の末梢部分にでき、たばことはあまり関係のない『腺がん』なのです。この事実は医学界でも知られていることです」
ではなぜ、たばこだけが肺がんの誘発要因とされているのか。大気汚染の有害物質を調べる大学教授はこう指摘する。
「車の排気ガスやアスファルトの粉塵、工場の煤煙などに含まれるPM2.5(微小粒子状物質)は毒性が強く、たくさん吸い込めば肺の奥まで達するために、ぜんそくや肺がんを引き起こすと見られています。
今でこそ中国から飛散するPM2.5の人体に与える健康被害が心配されていますが、これまで科学的なデータを取ってこなかったのは、クルマ社会や工場のフル稼働によって人間が恩恵を受けてきたから。その一方、『百害あって一利なし』といわれるたばこは禁煙運動の流れもあって槍玉に挙げやすかったのです」
前出の武田氏は「たばこは肺がんの元という先入観は捨てるべき」と断言する。
「もちろんたばこがまったく無害だと言っているわけではありません。ただ、肺がんとの因果関係が科学的根拠に乏しいにもかかわらず、とにかく喫煙者を減らしてたばこそのものを追放しろという流れになるのはおかしい。ここまできたら学問ではなく、他人の自由を奪う単なる感情論でしかありません」
行き過ぎた“たばこ狩り”は、肺がんの撲滅に繋がらないばかりか、人々の関係性さえぎくしゃくさせる。こんな禁煙ファシズムがまかり通って、一体誰にどんなメリットがあるのだろうか。
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