新型コロナウイルスの感染が拡大した3~5月にかけ、感染者を受け入れた医療機関で、シーツなどのクリーニングや院内の清掃を委託先の業者に拒否される事例が相次いでいたことがわかった。委託業務が滞れば、医
新型コロナウイルスの感染が拡大した3~5月にかけ、感染者を受け入れた医療機関で、シーツなどのクリーニングや院内の清掃を委託先の業者に拒否される事例が相次いでいたことがわかった。委託業務が滞れば、医療現場の負担につながる恐れがあり、専門家は第2波、第3波を見据え、対策の必要性を指摘している。(川崎陽子、増田尚浩)
■第2波へ対策必要
■3か月分
5月下旬、大阪府豊中市の市立豊中病院の一室に約3か月分の使用済みシーツや枕カバーなどが袋に詰めて積み上がっていた。
同病院は感染症指定医療機関の一つで、2月下旬から感染者の受け入れをスタートした。感染者の標準的な入院期間は2~3週間。通常なら週1回程度の頻度でシーツ交換が必要だ。
感染症患者が使用したシーツなどのリネン類のクリーニングは、1993年の厚生省(現・厚生労働省)通知で、外部に委託する前に院内で80度以上の熱湯で消毒するなどとされている。しかし同病院の本来の感染症病床は約15床。その3倍近い病床をコロナ感染者の受け入れに充て、院内での消毒が追いつかなくなった。
通知では「やむを得ない場合」は未消毒でも委託できると認めており、病院はこれに基づき、委託業者と交渉したが「未知のウイルスで感染リスクがある」と話がまとまらなかった。
こうしたケースは各地で起きたとみられ、全国約140業者が加盟する「日本病院寝具協会」(東京都)には3月頃から、医療機関から「委託先に未消毒のリネン類の回収を断られた」との相談が複数寄せられた。
■清掃も
厚労省は4月24日、未消毒のリネン類のクリーニングも外部委託可能とする方針を決定。容器に密閉し「未消毒」と明記するなどの手順を各自治体に周知した。
それでも改善につながらなかったケースもあり、京都第二赤十字病院(京都市)ではシーツを医療廃棄物として捨てる判断をした。
ただ「使い捨て」にはコストが伴う。同じくリネン類を廃棄処分した大阪府内の医療機関によると、1人分のシーツや枕カバーのクリーニング費用は70円程度だが、廃棄し、買い替えるとその40倍。医療機関の担当者は「受け入れ期間が長引けば、病院経営も圧迫される」と明かした。
院内の清掃を巡っても同様の問題が起きた。
新型コロナの専用病棟を設けた大阪府内の病院は3月、清掃会社から「従業員に感染の恐れがある」と業務を断られ、看護師が消毒、清掃を行っている。4月下旬から軽症者の受け入れを始めた東日本のホテルは、契約していた清掃会社から解約を申し出られた。
■リスクにためらい
業者側にも事情がある。
医療機関など400施設以上の寝具のリース・洗濯を請け負う「三栄基準寝具」(大阪府羽曳野市)は未消毒のリネン類も引き受けたが、消毒の工程はゴーグル、マスク、手袋を着用し、細心の注意を払う必要があり、吉川武社長(75)は「従業員の感染リスクは常につきまとう」と不安を口にする。
東京都内の清掃会社は4月、従来の委託先に拒否されたとみられる複数の医療機関から「コロナ感染者の病棟の清掃を頼めないか」と、打診を受けたが断った。フェースガードや防護服は購入したが、同社の男性社長は「次に依頼があっても、病院と感染予防について十分に協議してからの決断になる」と慎重な姿勢をみせた。
九州大の馬場園明教授(医療経営学)の話「医療従事者が治療に専念する環境を整えるには、外部業者の協力が欠かせない。第2、第3波での医療体制を維持するためには、国や自治体は外部業者も含めた感染予防を、コストを含めどう支援していくか検討を進めるべきだろう」