大学生は原則、生活保護を認められない。大学・短大の進学率が8割に達した今も60年前のルールが適用されている。若者たちは「大学は贅沢ですか」と声を上げ...
3歳の時に両親が離婚。母親(53)と一緒に暮らし始めたが、母親は心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを発症し、働けなくなり生活保護を受けるようになった。電気などライフラインが止まることもよくあった。
貧困から抜け出すには学歴が必要と考え、勉強して国立大学に進もうと決めた。
しかし、高校1年の時、生活保護世帯の子どもは原則として大学進学が認められず、進学するには「世帯分離」しなければいけないと知った。世帯分離とは、住民票に登録されている一つの世帯を二つ以上に分け、保護から外れることだ。
「こんなに頑張っているのに、生まれてきた環境だけで選択肢を狭められるんや──」
ショックだったが、現実を受け止めて猛勉強した。2020年春、第1志望の大学に合格。返済不要の給付型奨学金や授業料の減免措置を受けることができ、世帯分離の手続きもした。ようやく手にした未来への切符だった。
だが、待ち受けていたのは過酷な現実だった。
母親からの仕送りは望めないので、生活費も教材費も国民健康保険料までも自分で支払わなければいけない。世帯分離したことで、家族に支給される保護費の減額分(約4万円)を母親から求められた。塾の講師やキャバクラなどバイトに追われ、睡眠は1日4、5時間。食費を切り詰め、体重は36キロまで落ちた。心と体が悲鳴を上げ、摂食障害とうつを発症し、1年で休学を余儀なくされた。
生活保護行政に詳しい立命館大学准教授の桜井啓太さん(社会福祉学)は「より厳しい人がいるから認めない、という均衡論はおかしい」と指摘する。
「現在、高校への進学率は98.9%(21年)で中学卒業後に働く人もわずかですがいます。しかし、生活保護世帯の高校生の生活保護は認められます。均衡論でいえば、高校生の生活保護も対象から外されないといけないことになります」
大学生は生活保護の対象外とするルールは、60年前の63年に出された旧厚生省の通知に基づく。当時の大学や短大への進学率は15%程度で大学は「贅沢品」。だが、今は83.8%(21年)と大きく伸びた。それにもかかわらず、制度の運用は変わっていない。生活保護世帯の大学などへの進学率は39.9%(21年)にとどまる。
「しっかりとしたエビデンスをつくり、それに基づき判断するべきです」(桜井さん)