平成27年10月、茨城県つくば市の自宅アパートの床に穴を開けて階下に侵入し、当時 - Yahoo!ニュース(産経新聞)
■10年ぶりの「再会」
「恋愛感情を抱いていた。彼女は人生の全てだった」
男が吐露した愛の告白は、法廷の静寂に溶けて消えた。10年間かけて温めた思い。直接伝えることは、ついぞかなわなかった。
平成8年、インフラ整備会社に務めていた男が茨城県に赴任した際、同僚の男性に連れられて入った飲食店で、アルバイトをしていたのがその女性だった。しかしその後、男は東京都内へと転勤。18年に再び茨城県内の営業所に戻り、女性と10年ぶりの再会を果たしたことで、男の恋の歯車は回り出した。
女性はクラブや小料理屋など、数軒の飲食店のオーナーになっていた。はじめの3カ月ほどは、女性から誘われて女性の経営する店に足を運んでいた男だったが、そのうち自ら通うようになった。週末に1~2回訪れ、一度に3万~5万円を支払っていたという。
女性は、男を常連の上客として扱った。証人尋問に臨んだ女性は「あくまで経営者と客」と説明。「男に恋愛感情を抱いたことはあるか」という検察官の質問に、「すみませんが、ありません」と即答した。
だが、男は違った。
「かなり面倒見が良くて、優しい人だと思った。容姿も好みだった」
「5年くらい前から彼女になってほしいと思い、3年くらい前から、結婚するなら彼女しかいないと思っていた」「年齢的に、私には彼女が最後のチャンスだと思った」
思いを募らせた男は、女性に「好きだ」とか、「彼女になってほしい」など、好意を伝えるメールを数通送った。口頭で直接伝えたことはない。女性は「酔って送っているのだろう」と考え、はっきりと拒絶しなかったという。男はこう思った。
「十分脈がある」
男の行動はエスカレートしていく。
■トイレに隠しカメラ
27年8月、男は女性の経営する小料理屋のトイレに隠しカメラを仕掛けた。理由は「端的なことを言えば、見たかった。いやらしい気持ちをこっそり満たしたかった」から。
カメラは男が回収する前に女性に見つかった。1週間後、男は自分がやったと白状したという。この件については当事者間で示談に至っているが、女性の中には男に対する恐怖心や不信感が刻まれた。
9月半ば過ぎ、男はある疑念を抱き始める。女性に交際相手がいるのではないか-。
「心外だ。交際相手がいるのに言わないのならば、隠しているということだ」「もし交際相手がいるなら、言葉で攻撃するだけではすまない」「休日は自分と会っている。平日の行動を確認しよう」
男が、つくば市内にある女性の住むアパートに空き部屋がないか、不動産屋に問い合わせると、9月末に1部屋空く予定があった。それが203号室。女性の住む103号室の真上の部屋だった。
■穴開け作業開始
男は小型カメラを購入し、スタンガンをネットで注文した上で、10月15日、203号室に入居。アパートの入り口と駐車場を監視できるように、自室のベランダに小型カメラを2台設置した。「浴室の天井に点検口があるのに気付き、ここから侵入できるとひらめいた」として、同日、電動ドリルやのこぎり2本などを購入。その夜から、購入した工具などを使って少しずつ、自室の浴室の床に穴を開け始める。
男の説明によると、まず203号室の浴室で、天井の点検口から、「下げ振り」と呼ばれる道具を使って垂直に糸を下ろし、床に目印を付けた。そしてのこぎりとパイプカッターで浴室の床に穴を開けた。
その下にあったALC(軽量気泡コンクリート)材は、のこぎりで切った。さらに、その下の石膏(せっこう)パネルには電動ドリルを使用。最終的には、103号室の浴室天井の点検口に至るまで、3層に渡って穴を開けた。
「音がするので、本当に少しずつやった」という。防音効果を期待して、203号室の浴室の壁や天井には、薄いスポンジ材を張り付けた。インフラ整備会社に勤務していただけあって、その作業はかなり手慣れていたようだ。
18日、女性の経営する飲食店に行く。
19日、小料理屋のトイレを盗撮した件について、女性に示談金200万円を支払う。
20日ごろ、成人用玩具を購入し始める。
23日、女性に交際相手がいると確信する。
「裏切られて、だまされたと思った。制裁を加えてやろう。問いただしながら強姦して、辱めてやろうと決めた」
そして25日の夜中、男はついに10日間にわたる「作業」を終えた。203号室の浴室床から103号室の浴室天井にかけて、縦約40センチ、横約60センチの穴が開いたのだ。
26日午後4時ごろ、女性が帰宅。自室のモニターで監視していた男は、犯行の実行を決意する。「男と2人で帰ってきた。自分が交際相手だと思っている人だった」からだ。
■体液入りペットボトル
男は午後10時半ごろ、女性が再び外出したのをモニターで確認。103号室の浴室天井の点検口を開け、穴を通り抜けて、女性の部屋へと侵入した。
男は手錠やさるぐつわ、監視用のモニター、バッグなどを持ち込んだ。バッグの中にはタオルに丁寧に包まれた大量の成人用玩具や、精力剤が入っていた。「女性を汚してやろう」と、自身の体液を入れたペットボトルも用意した。
27日午前0時半ごろ、女性が帰ってきたのを確認。男はスタンガンを手に、暗がりに身を潜めた。
女性は知人を車内に待たせ、1人で103号室の玄関をくぐった。男はスタンガンを持った右手を振り上げ、女性に襲いかかった。女性はすぐに気がつき、男の右手を両手でつかみ抵抗。もみ合っているうちに2人で床に倒れ込んだ。
女性は叫び声をあげて助けを求めた。男は女性のすぐ近くでスタンガンを放電。このとき女性は右腹部にやけどを負っている。女性は必死に説得を試みて、「外に人がいる」「警察を呼ばれてしまうかも」「警察には言わないから逃げて」などと訴え続けた。
興奮していた男は「10年間だましやがって」「男がいたんだろ」などの暴言を吐いていたが、女性の恐怖におののいた表情や説得の言葉に、次第に強姦する意欲を失った。ついには女性に促されるまま、女性のサンダルを履いて外へと逃げ出た。
203号室に戻るわけにもいかず、近くのコンビニにいる男を女性の通報で駆けつけた警察官が発見し、逮捕した。そして今年5月27日、男には懲役3年6月の実刑判決が言い渡された。
男は女性に対し、直接殴る蹴るなどの暴行は加えなかった。その理由を裁判官に問われると、男はこう答えた。
「好きな女性を殴るなんて、考えられない」
まったくもって、強姦による制裁を企てた男が言えたせりふではない。