・まず、NICU(新生児集中治療室)では男児よりも女児のほうが強い。
・深刻な飢饉に襲われたときには、男性よりも女性のほうが生き延びる。
・2017年時点でも、結核で死亡した130万人のおよそ3分の2が男性である。
・男性はがんになりやすく、がんで死亡する割合も高い。米国がん協会のデータによると、がんを発症するリスクは女性に比べて男性のほうが20パーセント高く、がんによる死亡率も40パーセント高い。
人間だけでなく、マウスでも免疫系は雌のほうがはるかに強い(ただし鳥、トカゲ、両生類は雄の方が遺伝的な理由によって強い)。
■「男性の方が危険な仕事・生活をするから早死に」ではなく、X染色体の本数の違い
■強い免疫の代償――自己免疫疾患
女性は遺伝子レベルで男性よりも強い免疫系を持ちうるようにできている、というわけだ。
もっとも、良いことばかりではない。免疫系は細菌やウイルス、腫瘍などの自己と異なる異物を排除する役割を持つが、自分自身の正常な細胞や組織に対しても過剰反応し攻撃する「自己免疫疾患」が現在100種類ほど知られている。
この自己免疫疾患の患者の80%以上が女性なのである。これにはホルモン(エストロゲン)の影響からも説明ができるかもしれないというが、いずれにしても女性がかかりやすいものになっている。
■男性をモデルにしてきたことの弊害
とはいえ基本的には、女性は生まれながらに免疫特権をもち、感染やがんとの闘いに男性よりも強いと言える。2本のX染色体のおかげで女性は生まれつき多様な能力に恵まれている。
ところが、医療は主に男性(雄)の細胞、雄の実験動物、男性の被験者を用いた研究の上に築かれてきた、とモアレムは批判する。肉体や精神の健康について、男性から見た決定要因を考えがちであり、男女でまったく同じ治療をおこなうことが少なくない。
一方では、便秘を伴う過敏性腸症候群の治療薬であるゼルノーム(テガセロッド)のように、女性にだけ効き、男性には効果がない薬も既にあることもわかっている。
つまりこの先、男性と女性の遺伝的な違いを踏まえた研究が進むことで、女性はより長寿に、健康になりうる可能性がある。