短い動画が投稿されるSNS「TikTok」で小説の紹介を続けているある男性のところには、本の感想だけでなく、次のような質問が届くことがあるという(※1)。「本はどこで買えるんですか」 「非常識」な質問である。だが、日本社会の知的資源の格差を念頭に置くと、必ずしもそうは言い切れないことが見えてくる。
よく言われるように、収入と読書量には相関があり、収入が高い層ほど本をよく読む傾向がある(※2)。
また、学歴と読書習慣との関係を示すデータも多い。たとえば就業者10000人を対象にした2023年の調査(※3)では、大学院卒の読書率は高校・中卒の人々のそれのほぼ倍だった(32.4%と16.3%。ただし「読書」の具体的な内容は問うていない)。読書については育った環境の影響も大きいようで、20~39歳を対象に「15歳のときに家にあった本の数」と本人の学歴との関係を調べた2015年の調査では、本が10冊以下しかない家で育った人間の68.7%は最終学歴が高校卒業だが、逆に501冊以上本がある家で育ったものは、実に77.4%が大学を卒業している(※4)。
さらには、書店の分布にも地域による大きな偏りがあり、都市部に多く地方に少ない。
つまり、日常的に本を読むような少数派の人間は都市部の高学歴・高所得層に偏っているし、その逆も言える。そして結婚相手には同じ階層の人間を選ぶ傾向があるだろうから、「家にほとんど本がなく、両親に読書習慣がなく、書店が近くにない」という環境で育つ者が少なからずいることがわかる。ならば、本の入手先を知らない若者がいても、まったく不思議ではない。