ブームが盛んになればなるほど、闇に葬られるペットが増えるとの懸念が、動物愛護団体 - Yahoo!ニュース(毎日新聞)
ブームが盛んになればなるほど、闇に葬られるペットが増えるとの懸念が、動物愛護団体を中心に強まっている。大量生産には必然的に売れ残りが伴うからだ。こうしたペットを、どんな運命が待つのだろうか。栃木県中部の山あいの施設で犬や猫を劣悪な飼育環境に置き、10月17日に栃木県警から動物愛護法違反(虐待)容疑で書類送検された「引き取り業者」のケースを、ジャーナリストの駅義則さんが報告する。
「17~18年前からやっていて最盛期には200匹強いた」。引き取り業の会社を経営してきたS氏は、送検前の電話取材にこう語った。廃業を強いられたブリーダーから犬や猫を引き取って飼育し、別のブリーダーなどに転売するのが、主要な業務だった。
10年ほど前から飼育環境が劣悪になったとの通報を受けた公益社団法人・日本動物福祉協会が調査したところ、排せつ物の処理などが適切に行われず、19匹の犬や猫が体調を崩していた。協会はS氏の会社が動物愛護法44条2項の適切な飼養管理及び健康管理等を怠った虐待罪に該当するとして告発、今年5月に同県警が受理していた。
◇「俺がやめたら殺処分しかなくなる」
協会が調査した時に撮影された写真には、死後も放置された犬などの惨状が捉えられている。告発状に付けられた「被虐待犬猫一覧表」によると、栄養失調により死んだミニチュアダックスフントや、ダニの付着に耐えかねて目や首の周辺をかき過ぎ、皮膚が欠損したアビシニアン(猫)がいた。
だが、S氏は「殴ったり蹴ったりはしておらず、虐待したつもりはない」と言い切った。刑事処分を受けたとしても事業は続けるつもりだという。「俺がやめたらみんな困るでしょ。殺処分するしかなくなるだろうし」というのが、その言い分だ。
動物福祉協会の川崎亜希子・栃木支部長は「現在の動物愛護法では、必要最低限の世話をせずに放置するネグレクトの場合も虐待罪に問われることを、S氏は知らなかったようだ」と指摘。「県が実態を把握して指導していれば、こんな惨状にはならなかっただろう」と話す。
◇事件は氷山の一角
栃木県では2014年10月にも、鬼怒川河川敷で大量の犬の死体が発見された。愛知県のブリーダーが劣悪な飼育環境下で子犬を産ませ続けたあげく、熱中症で死んだ。死体は栃木県まで運ばれて捨てられたとみられている。川崎氏は「こうした事件は氷山の一角に過ぎない」と指摘。ペット流通の仕組みが現状のまま続く限り、「不幸の連鎖は無くならない」と述べている。
動物愛護法で規定された虐待罪の刑事罰は100万円以下の罰金。犬や猫などの「愛護動物」を遺棄した場合も、これと同じだ。動物愛護法に基づく最も重い罰は、正当な理由がなく殺傷した場合であり、2年以下の懲役ないし200万円以下の罰金となる。
だが、筆者の知る限り、いくら悪質な事件でも懲役や禁固の実刑判決が出たことはない。たとえば、12年に判決が出た川崎市での猫虐待事件。飼い主になると言ってボランティアからだまし取った猫を残虐な方法で殺したとして、動物愛護法違反と詐欺罪に問われた男性に言い渡されたのは、執行猶予5年が付いた懲役3年の判決だった。
◇無責任な繁殖や販売をしない覚悟が必要
14年に埼玉県で、全盲の男性が連れていた盲導犬が何者かに刺された事件では、器物損壊容疑で捜査が行われた。愛護意識が高まってはいるものの、法的に見ると犬や猫はあくまでも「もの扱い」の色彩が強い。
この現実に行き過ぎた商業主義が加わると、悲劇は避けられない。「売れない商品」に、エサ代や医療費などのコストを費やすのは市場原理に反するからだ。だが、売れ残りという「不良在庫」を出すこと自体、市場経済では本来ご法度とされている点も指摘しておきたい。
精神論になるかもしれないが、不幸の連鎖を止めるにはペットの命に携わる人間の全てが、「覚悟」を共有する必要があるのではないだろうか。生産・流通業者には無責任な繁殖や販売をしない覚悟、消費者には安直に買わない覚悟、そして飼い主には、「相棒」として最後まで面倒を見る覚悟が、それぞれ求められている。