タカシマヤタイムズスクエア(「Wikipedia」より/Gorgo) 訪日外国人観光客の増加が止まらない。今年10月末、観光庁は2016年の訪日外国人観光客数が…
背に腹は代えられない百貨店は、これまでの経営方針とはまったく異なる戦略をとり始めている。それが、郊外に店舗を持つカテゴリーキラー(特定の商品カテゴリーを豊富に取り揃え、低価格で販売する業態の小売店)を続々と入居させるというものだ。
広大な郊外型店舗で格安家具・インテリア雑貨などを販売するニトリは、15年4月に東京・銀座のプランタン銀座に進出して話題を振りまいた。その後、今年10月には上野のマルイにも出店を果たしている。
ニトリの都心百貨店への進出はとどまるところを知らない。12月1日には新宿タカシマヤタイムズスクエア店がオープンし、17年春には池袋の東武百貨店にも出店する。
■ショッピングモール化する都心の百貨店
百貨店が招き入れる“異端者”は、ニトリだけではない。ファストファッションの代名詞的存在のユニクロ、デフレ時代の申し子ともいえる100円ショップなど、老舗百貨店のカラーとは異なる業態が、近年になって続々と進出している。
百貨店が自身のブランド価値を落としてしまいかねないショップを次々と出店させるようになった背景には、何があるのだろうか。流通アナリストの渡辺広明氏は、こう分析する。
「ニトリやユニクロといった低価格を売りにしたショップが高級路線の百貨店に出店するようになった最大の理由は、なんといっても百貨店のマーチャンダイジング(MD)力が低下し、さらにそれを放置してきたからです。百貨店が小売業の主役だった1980年代までは、商品をどう陳列してどう宣伝するか、消費者にどう訴求していくか、といった戦略を百貨店側が綿密に練っていました。
そうしたMDによって、消費者は百貨店での買い物に刺激を受け、百貨店で買い物することに喜びを見いだしていたのです。しかし、出店テナントのリスクのない委託販売に依存したことなどにより、自社売場のMD力が落ちたことで百貨店の魅力は失われ、その後も効果的な方策を打つことを怠りました。
そして、売り上げを回復させようとするあまり、百貨店は世間で人気がある店を入居させるようになったのです。その結果、百貨店はもはや“都心にあるショッピングモール”という存在になりつつあります」(渡辺氏)
都心の百貨店の場合、その立地ゆえに売り場面積はどうしても小さくなる。当然、郊外の広いショッピングモールに品揃えでは勝つことはできない。しかし、ニトリやユニクロなど郊外のショッピングモールと代わり映えしないフロア構成でありながら、品揃えは悪いとなれば、今後も百貨店の売り上げが低下するのは明らかだ。
一方、ニトリやユニクロといった異端者が賃料の高い百貨店に出店するメリットはあるのだろうか?
「特に20代女性に顕著ですが、東京や大阪などの大都市では自動車を保有しないライフスタイルも浸透しています。そうした若者にとって、ニトリのような郊外店を中心に展開してきたショップは、まだなじみが薄い。ニトリは、そうした層を取り込むために都心の百貨店に出店しているのです。
いわば、都心の店舗はショールーム。近年、買い物はネット通販による売り上げが拡大していますが、それでも消費者は『実際に見て、触れる』という行為を大切にします。消費者が直接触れられる機会をつくる、それが都心の百貨店に進出する狙いでしょう」(同)