「耳掃除は不要」という見解が、アメリカの耳鼻咽喉科の学会で発表された。日本の医師も「習慣的な耳掃除は必要ありません」と話している。イヤホン製作のプロは、細めの綿棒で耳の手前だけを軽く掃除しているそう
●本当に耳掃除はダメ? 医師の答えはやはり…
あの至福の時間、耳掃除が不要なんて信じられないんですけど! そこで、耳鼻咽喉科の先生にその真相を確かめに行くことに。川越耳科学クリニックの坂田英明先生、教えてください!
「習慣的な耳掃除は必要ありません。3カ月に1回程度、もしくは、『耳が聞こえづらい』と思った時にするぐらいで十分です。そもそも『耳垢』は、外から入ったホコリをキャッチしたり、皮膚を刺激から守ってくれたりと、私たちの耳に必要なものなんですよ。さらに私たちの耳は、毛が穴の外側に向かって生えていて、ある程度耳垢が溜まったら、耳の外に出す機能が備わっているんです。気持ちいいからといって綿棒や耳かきで無理やり耳垢を取り除いてしまうと、徐々にその機能が衰えてしまいます」
耳って、自分で垢を外に出せるようになってたんだ…!
「また、耳掃除の時に綿棒を使っている人に多いのが、耳垢を奥に押し込んでしまっているケースです。耳の奥まで行ってしまった耳垢は自分では取り除くことができず、どんどん溜まってしまいます。それが原因で難聴を引き起こしたり、カビが繁殖してしまったりすることもあるんですよ。以前、耳の中が炎症を起こして腫れ上がり、手術した事例もありました。実はアメリカでは、綿棒のパッケージに『耳掃除には使用しないでください』と注意書きがされています。それほど、自分で耳掃除をする行為には慎重さが必要なんです」
でも、どうしても耳掃除したい時ってあるじゃないですか。そんな時はどうすれば?
「やはり耳鼻科に来ていただくのが一番安全ですね。ただ、毎回そういうわけにもいかないとは思いますので、タオルやティッシュなどを指先に当て、指の先が入るところまでをササッと拭くといいですよ」
先生いわく、“耳掃除のしすぎな耳”を通常の機能に戻したい場合は、1カ月触らずに我慢する必要があるとのことだ。
●イヤホン製作のプロは、どうやって「耳掃除」をしているのか
では、ほかに耳と関わりの深い仕事をしている“耳のプロ”の意見はどうなのだろう? オーダーメイドのイヤホンや補聴器の型取りを手掛け、年に約1000人もの耳を見ているという「東京ヒアリングケアセンター」の菅野 聡さんに聞いてみた。
「これまで、腫れている耳や、傷がある耳をたくさん見てきました。そういう人に話を聞くと、たいてい自分で耳掃除をやり過ぎているんです。弊社の場合、耳型を取る際に耳に樹脂を流し込むので、傷があると作業が進められなくなってしまうんですよ。ちなみに私自身は、一般的に市販されているものより細めの綿棒で、耳の手前側だけを軽く掃除するようにしています。奥まで綿棒を入れることはしないように気をつけていますね」
さらに、カスタムイヤホン「Just ear」の開発者・松尾伴大さんにも話を聞いてみたところ、「耳は思っているよりも複雑な構造だからこそ、自分で掃除する際は注意が必要なんだと思います」とのこと。
「耳の穴は、鼓膜までまっすぐ伸びていたり、途中で横に曲がっていたり、人によって様々な形をしているんですよ。また、体重が増えると、耳の穴のサイズが変わることもあるんです。僕も、綿棒をあまり奥まで入れないようにして、手前のみを掃除するようにしています」
ちなみに、入り口だけを綿棒で掃除する方法は、前出の坂田先生も「綿棒を使っていても、耳の奥ではなく手前の掃除なので問題ありません」とのこと。
耳かきをすることで得られるあの快感は手放しがたいものだけど、耳のことを考えればやめたほうがいいのかも。