匿名さん
後ろからついていくと、女の子が歩道橋の階段を上り始めた。宮﨑はすぐさま道路を横切り、反対側の歩道に移った。歩道橋に急ぎ、反対側の階段を上る。こうして子どもは連れ去られた 知っているようで知らない「宮﨑勤事件」の誘拐手口(小宮信夫) - エキスパート - Yahoo!ニュース
夏休みに起きた事件で最も有名なのが「宮﨑勤事件」。世間を震撼させたシリアルキラー(連続殺人犯)による誘拐殺人事件だ。1988年から翌89年にかけて、埼玉と東京で4人の幼女が相次いで犠牲になった。すでに
(ちょうど、橋の上ですれ違うぞ)
計算通り、橋の上で、女の子が向こうから近づいてきて宮﨑と対面した。宮﨑が腰をかがめ、笑顔で声をかける。しゃがんだのは、親しみを演出するだめだ。
「今日は暑いね。とっても嫌だね。でもね、お兄ちゃん、これから涼しいところに行くんだ。いいだろ?」
「……」
女の子は、きょとんとしている。
「一緒に行く? 今、来た道でいいんだよ。お兄ちゃん、先に行くから、よかったらついてきて。じゃね」
宮﨑はその場を離れ、歩道橋の階段を下りていく。宮﨑が上ってきたのとは反対の階段だ。
女の子は一人、橋の上に残され考えていた。
(あれっ、お兄ちゃん、行っちゃった。……悪い人は、手をつかんで引っ張っていくんだよな。でも、あのお兄ちゃんは、そうしなかった。だからきっと、いい人なんだ。私も、涼しいところに行こうっと)
そう思った女の子は、宮﨑の後を追って階段を下りた。
大通りの歩道を歩く宮﨑。しかし、後ろから来る女の子を待とうとはしない。宮﨑は5メートルくらい前を歩いている。女の子と並んで歩かないのは、誰かに見られても、誘拐していると思われないためだ。
しかもこの道は、団地の窓から見られることもない。中層の建物が立ち並んでいるが、道路に面しているのは窓のない壁だからだ。
宮﨑が立ち止まった。団地の駐車場に着いたのだ。
「よ~し、これから涼しいところに行くぞ! さあ乗って」
女の子は満面に笑みを浮かべながら、車の助手席に乗り込んだ。
地獄行きの車だとは知る由もなかった。