匿名さん
気になる点と言えば、今回交尾をしたオスたちはみな社会的順位が低く、普段交尾があまり観察されないオスたちであったということです。この調査地の過去のデータでは、メスとの交尾は社会的順位の高いオスたちによって占有される傾向にありますが、今回これらの順位の高いオスたちは死亡個体に対して接触や毛づくろいはしたものの交尾はしませんでした。死亡個体と交尾するサルは“異常”なのか…「死の概念」はヒト特有のものかもしれないと言える理由(豊田 有) @gendai_biz
動物にとって、個体の「死」は避けることができない現象です。動物は、仲間の「死」に直面した時に、どう振る舞い、どのような影響を受け、それとどう向き合うのでしょうか。そもそも動物には、「死の概念」があるのでしょうか。こうした動物の死生観を明らかにするのが死生学(Thanatology)です。
死亡個体に対する毛づくろいの様子などから、ベニガオザルたちは、死体と対面した際に、その個体が「通常ならざる状態である」ことは理解できているらしい、ということはわかります。ですが、それが「死んでいる」状態であることと結びつかないようです。
「通常ならざる状態」に陥っているメスを見たことによる強烈な心理的ストレスが性的興奮を喚起した、という解釈もありえますが(ベニガオザルではケンカが起きて社会的緊張が高まると交尾が頻発することがあります)、もし仮にそうだとすると、交尾をしたオスの社会的順位に偏りが生じている理由の説明がつきません。
これらの結果から我々は、死体との交尾が起きたのは、「メスが無抵抗な状態で横たわっている」という状況が、普段交尾機会の獲得が難しい社会的順位の低いオスたちにとって、交尾のチャンスであると認識された結果である可能性が高い、と結論づけました。
普段交尾機会がたくさんある順位の高いオスたちにとっては、そのメスと交尾するよりも、「通常ならざる状態」であることの違和感から交尾を避ける選択をしているらしいと考えられます。そして、死後3日目の腐敗が進んだ状態のメスに対しても交尾がおこなわれたことを考えると、ベニガオザルたちには明確な「死の概念」がないのではないか、という結論に達しました