匿名さん
風俗嬢にもなれない「最貧困女子」問題の解決法とは?[橘玲の世界投資見聞録]
前回は「今年面白かった本」として歴史家レザー・アスランの『イエス・キリストは実在したのか?』を紹介したが、今回は鈴木大介氏の『最貧困女子』(幻冬舎新書)と中村敦彦氏の『日本の風俗嬢』(新潮新書)を題材に現代日本の貧困について考えてみたい。
これまで経済大国・日本では、若い女性は貧困とは無縁だと考えられてきた。「若い」というだけで社会的価値があり、それを利用して金銭を獲得できるからだ。いわゆる「水商売」や「風俗」のことだが、中村敦彦氏は『日本の風俗嬢』で、2000年あたりを境に風俗の世界に大きな地殻変動が起きたという。
ひとつは少子高齢化と価値観の多様化(草食化)によって風俗の市場が縮小したこと、もうひとつは女性の側に「身体を売る」ことへの抵抗や貞操観念の低下から風俗嬢志望者が激増したこと。需要が減って供給が増えたのだから、当然、価格は下落する。これが「セックスのデフレ化」で、かつては月100万円稼ぐ風俗嬢は珍しくなかったが、いまでは指名が殺到する一部の風俗嬢の話でしかなく、地方の風俗店では週4日出勤しても月額20万円程度と、コンビニや居酒屋の店員、介護職員などとほとんど変わらないという。
貧困線上にある若い女性にとってさらに深刻なのは、景気の悪化によって風俗業界が新規採用を抑制するようになったことだ。そのため現在では、10人の求人のうち採用されるのはせいぜい3~4人という状況になっている。日本社会は(おそらく)人類史上はじめて、若い女性が身体を売りたくても売れない時代を迎えたのだ。
このようにして、金融資本と社会資本をほとんど持たずに地方から都会にやってきた若い女性のなかに、唯一の人的資本であるセックスすらマネタイズできない層が現われた。彼女たちは最底辺の風俗業者にすら相手にされないので、インターネットなどを使って自力で相手を探すか、路上に立つしかない。それでもじゅうぶんな稼ぎにはほど遠く、家賃滞納でアパートを追い出され、ネットカフェで寝泊りするようになる――すなわち「最貧困女子」の誕生だ。