匿名さん
人間が持つ根源的な「ルール」のひとつとして、「インセスト・タブー」が挙げられます。ここでは『悲しき熱帯』で出てきたナンビクワラを例にしましょう。ナンビクワラ社会では、「交叉いとこ」の男女同士は、生まれた時から「夫」や「妻」を意味する言葉で呼び合っていました。それは、ある男性にとっては、彼の父の姉や妹あるいは母の兄や弟の娘のことです。男性は、それらの娘のうちの1人とやがて結婚するのです。なぜ人類は「近親相姦」をかたく禁じているのか…ひとりの天才学者が考えついた「納得の理由」(奥野克巳)
「人類学」という言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう。聞いたことはあるけれど何をやっているのかわからない、という人も多いのではないだろうか。『はじめての人類学』では、この学問が生まれて100年の歴史を一掴みにできる「人類学のツボ」を紹介している。
その男性にとっては、逆に規則上、結婚を許されない女性たちがいます。母やオバや姉妹がその範疇に入ります。父の兄や弟あるいは母の姉や妹の娘という「平行いとこ」もまたその範疇に入ります。その男性とそれらの範疇の女性たちとの間には結婚だけでなく、性的交渉が禁止されています。つまり「インセスト・タブー」です。
文化人類学者のマルセル・モースによれば、同一集団の男性のメンバーにとって、女性の「利用可能性」は限定されています。利用可能性が限定された範囲が、インセスト・タブーです。
一方、インセスト・タブーの裏返しとして、自集団の女性を他の集団の男性に送り出します。モース的に言えば、インセスト・タブーの範囲にある女性だから交換するのではなく、交換するためにインセスト・タブーが生まれると言うべきなのです。